ドライエイジングとは
肉は温度、湿度、時間という環境要素を変えることで、熟成状態が変わってきます。
その環境要素は使用する肉、部位、熟成させる塊のおおきさなどによっても変わってきます。
真空パックへ入れずに、これらの環境下で肉から発せられる菌類の働きを利用して肉を熟成するのがドライエイジングと呼ばれる手法です。
いずれにしても、一定の温度や、湿度を保った環境に長期間置いて、肉のタンパク質をアミノ酸に分解させます。
その時間経過とともに、酵母や、肉の菌類の動きによって肉表面にカビが生じ、アミノ酸が増え、熟成香が生まれます。
ドライエイジングの方法
低温を保つ 腐敗を防ぐ
食中毒菌などの体に悪い菌が繁殖する温度が4℃以上といわれています。
そのため、牛肉を熟成させるために、熟成庫の温度を、0℃~1℃に設定します。(2℃~3℃で熟成させているお店もあります)
この、0℃~1℃という温度帯は、食中毒菌は増えにくいのですが、熟成に必要な低温発酵菌であるカビ酵母は増える温度帯なのです。
きおつけなくてはいけないのは、熟成庫の温度を保つということ。
そのため、熟成庫のドアの開け閉めについてもきっちり考えておかなくてはいけません。
熟成庫のドアを開けた時にお肉に外の雑菌が付着するかのせいがありますし、また、熟成庫内の温度も上昇します。
それを繰り返すことにより、カビではなく、雑菌が増殖する可能性もあります。
熟成庫の温度を0℃に設定しているからと言って、常にカビの繁殖に良い0℃に保たれているわけではありません。
大きな熟成庫の中であれば、場所によっても温度、温度変化が変わってくるものです。
温度計を複数個所に設置し、常にカビの繁殖する温度、雑菌が繁殖しない温度を管理することが重要です。
湿度を保つ 水分を適度に保ちながら適度に抜く
低温低湿度の熟成庫に一定期間牛肉を置き、水分を抜いていきます。
この水分を抜くという工程は、水分を抜くことで、うま味を凝縮させるという意味があります。
ただ、完全に水分を抜いてしまうと、ビーフジャーキーのようになってしまい、同時にうま味も抜けてしまうので、適切な湿度を保つことが必要になります。
肉に適度に水分を残しながら熟成させるために、ある程度の湿度を保たなければなりません。
保湿には、肉から発生する水分を調整する方法と、熟成庫内を加湿する方法があります。
単に乾燥した環境下に置くと、うま味は凝縮しますが、柔らかさは生まれてきません。
やはり必要以上に水分を抜かないような環境を作ることが大切です。
熟成期間 熟成の進行度合
熟成の期間はどのようなお肉の状態にしたいかによって、前後します。
屠畜後、お肉の柔らかさを感じるまでに2週間ほどかかるというのが一般的です。
通常屠畜後、タンパク質が変質をはじめ、肉の温度が下がり硬直が解けるまで1週間、柔らかさを感じるまでに、2週間はかかるといわれているためです。
肉の熟成のプロセスは、まず柔らかくなり、旨味が増え、最後に香りが付きます。ですから最低でも、2週間から20日は置かないと、熟成の意味がなくなってしまいます。
熟成庫内にも熟成香が広がり、これが肉に付着して、次第に中まで浸透します。ですからあまり熟成香を強くしたくない場合は、例えば30日間の熟成期間を20日間に
短縮して浅めの熟成にとどめるなど期間を調整する必要があります。
あとは個体の大きさ、部位、好みによって期間を調整します。
熟成の見極め
熟成ができているかを見極めていきます。
見極める方法としてはまず、
①触感(熟成がかかることで肉が柔らかくなる)
②カビの生え方(最初はうっすらと全体的に白くなり、次第にふさふさとした白いカビが生えてくる)
③脂の質の変化
などで判断します。
どんな熟成肉を目指すかでそれぞれの最高の状態を熟成の進行状況で判断していきます。
ヨーロッパなどでは、熟成しと呼ばれるエキスパートがいて、これを判断します。
さて、それでは腐敗を見分けるにはどうしたらいいのでしょうか?一番はっきりわかるのは、肉から発生する匂いと表面の粘り気です。
これが出たら、その肉は廃棄しなくてはいけません。
熟成は菌の発生を伴う現象ですから、単に肉の菌数を測定するだけでは判断できません。
酵母などの良い菌であるか、大腸菌や、ブドウ球菌などの食中毒を引き起こす悪い菌であるかが問題なのです。
ですので、万能ではありませんが、定期的な菌数のチェックは必要です。
ドライエイジングの注意点
1・環境を一定に保つこと
熟成に必要な環境を整え、一定に保つ必要があります。
2.熟成庫に多種の肉を入れない
食肉業界では、牛と豚を一緒に保存したり、運搬したりすることはありません。
それは牛の菌と豚の菌が違うため、それぞれの菌が混じることで食肉に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
牛と豚の菌は別物であり、それぞれ繁殖する温度帯が違うので、同じ熟成庫にいれることは好ましい環境ではありません。
また、牛や豚特有の香りも互いに影響し、よろしくないでしょう。
3.大きな塊で熟成させること
枝肉でつるして熟成させると、細胞が壊れず、ドリップがほぼ出ないため、肉に付着せず、通気が良くなり、腐敗は起こりにくくなります。
枝肉ですとトリミング後のロスも10%ほどと少なくなります。
しかし、部位別に熟成させると、熟成期間を短縮できるという利点もあります。
牛肉の中まで熟成が進んでいく時間は、大きい個体よりも小さいパーツのほうが短くなるからです。
4.最初からドライエイジングすべきか
屠畜後、肉の芯温をしっかり下げてからドライエイジングに入る必要があります。
牛の体温はと殺直後は36℃~38℃とかなり高いので、中が温かい状態で熟成庫に入れると、熟成中の他の肉にも影響を与えてしまいます。
5.輸入肉は骨付きを選ぶ
海外の牛はきれいすぎるといわれています。
現地で真空パックされて冷凍し、船便で一か月かけて届く肉の場合、中の菌はほぼゼロに近くなっています。
菌がゼロの状態のものをドライエイジングしようとすると、菌を発生させるところから始めなくてはいけません。
輸入肉を使用するのであれば、骨のついた状態で軽く袋詰めされた空輸ものが良いです。
真空パックではドリップがでやすいため、真空パック以外のもを選んでください。
骨付き肉をお勧めするのは、現地で骨を外すときに負荷がかかり、肉の線維が傷んでドリップが出てしまうからです。
骨付き肉ならばその心配は少なくなります。
まとめ
ドライエイジングについて説明しました。
とにかく温度の管理、雑菌の管理が大切です。
熟成庫の扉の開け閉めでさえ、温度の変化、環境の変化を生んでしまいます。
熟成肉とはとても手間のかかるものですね。
しかし、その手間をかけただけ、うま味が濃縮された熟成肉ができるのですから、手間も苦ではありませんね!
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